日本では、特に「インセンティブ型」のデマンドレスポンスが注目されています。その中でも「ネガワット取引」という仕組みが中心になっているのですが、一体どんな流れで、誰が関わっているのでしょうか?その疑問をスッキリ解消します!
日本で主流となっているインセンティブ型DR(ネガワット取引)の具体的な流れを解説します。
電力会社、アグリゲーター、需要家のそれぞれの役割を明確にし、取引の全体像を理解しましょう。
この記事はこんな人におすすめ
- 日本で主流となっているインセンティブ型デマンドレスポンス(ネガワット取引)の仕組みを理解したい大学生・大学院生
- ネガワット取引で電力会社・アグリゲーター・需要家が担う役割を整理したい方
- 自分がデマンドレスポンスに参加するときの具体的な流れをイメージしたい方
この記事で学べること
- 日本におけるインセンティブ型 DR の中心的スキーム「ネガワット取引」の概要と法的位置づけ
- 電力会社・アグリゲーター・需要家それぞれの役割と連携の仕組み
- DR 要請から報酬受け取りまでの 4 ステップとベースライン算定の考え方
- 国内実証・商用事例から見る最新動向
- 次回記事「参加メリットと注意点編」につながる課題と展望
0. はじめに
再エネ拡大で電力需給の変動幅が大きくなる日本では、需要側が協力してピーク負荷を削減する「インセンティブ型デマンドレスポンス(DR)」 が急速に整備されています。中でも注目されるのが、需要抑制量(ネガワット)を“仮想的な発電”として取引する「ネガワット取引」 です [1]。本記事ではこの取引の仕組みを、関係者の役割と参加フローに沿ってわかりやすく解説し、次回のメリット・注意点編へつなげます。
1. ネガワット取引とは?
ネガワット取引は、節電して生まれた“見えない発電量”を市場価値とみなす日本独自のインセンティブ型下げ DR です [2]。2015 年の省エネ法改正で制度化され、2021 年には需給調整市場が開設されました [1]。
法制度上、ネガワットは以下の2つに大別されます。
- 類型1:小売電気事業者が計画値同時同量を満たすために用いる場合
- 類型2:一般送配電事業者が調整力(需給調整市場)として用いる場合
の二つに大別されます。適切なベースライン(DR が無かった場合の想定需要) が算定できて初めて、公正な取引が成立します [3]。

2. 主要プレイヤーとその役割
ネガワット取引は「需要家 → アグリゲーター → 電力会社・市場」という3つの主要プレイヤーで成り立っています。
プレイヤー | 役割 | ポイント |
---|---|---|
電力会社 | 需給逼迫を検知し DR を要請し、実績に応じて報酬を支払います | 小売・一般送配電いずれも可 |
アグリゲーター | 多数需要家を束ね、指令配信と測定・検証(M&V)を行います | 2022 年から「特定卸供給事業者」として登録義務化 [4] |
需要家 | 実際に負荷を抑制し、kW/kWh の報酬を受け取ります | 家庭・オフィス・工場・EV など |
アグリゲーターは、分散した需要家からの小口リソースを集約し、電力会社へ“まとまったネガワット”として提供する司令塔です [4]。

3. ネガワット取引の流れ
ネガワット取引は、大きく ①DR 要請 → ②実施 → ③測定・検証 → ④報酬支払い の 4 段階で進みます。まず手順全体を俯瞰した後、それぞれを詳しく見ていきましょう。
3.1 DR 要請
電力会社が需給逼迫を検知すると、アグリゲーターに DR を要請し、アグリゲーターが需要家へ通知します [1]。通知は数時間前のこともあれば、数分前の緊急指令もあります。
3.2 実施
需要家は空調温度を上げる、ラインを一時停止する、蓄電池や EV を放電するなどして負荷を削減します [5]。
3.3 測定・検証(M&V)
アグリゲーターはスマートメーターや BEMS データを用いて、標準ベースラインと実需要を比較し、削減量を算定します [3]。
3.4 報酬支払い
報酬は待機容量に対する kW 報酬 と、実削減電力量に比例する kWh 報酬 の二本立てが一般的です [6]。

4. 需要家から見た参加ステップ
- アグリゲーター選定・契約
- 対応可能容量の申告(例:最大 200 kW 抑制可)
- DR 通知への応答:自動制御(FEMS 等)または手動対応
- 報酬受取と改善サイクル:ポータルで実績確認し、次回に備えます [7]
契約やポータル画面はサービス事業者ごとに異なりますが、上記 4 ステップが標準的な流れです。
5. 国内実証・商用事例
- 関西 VPP プロジェクトでは、産業用蓄電池と EV を遠隔制御し、需給調整市場(三次②)へ参入しました [8]。
- 北陸電力のネガワットサービスは、30 分単位でベースラインを設定し、kW と kWh の両建て報酬方式を採用しています [5]。
- 近年は容量市場でも DR が調整力候補として注目され、企業による参入事例が増えています [9]。
6. メリット・課題・今後の展望
インセンティブ型 DR は、発電所増設を抑えつつ系統を安定化できるという大きなメリットがあります 。一方で、次のような課題も指摘されています。
- ベースラインの精度と公正性 [3]
- 小口需要家を巻き込むコスト [10]
- サイバーセキュリティや契約実務 [10]
といった課題も浮上しています。
こうした論点は、次回④記事「参加メリットと注意点編」で詳しく掘り下げますので、ぜひ続けてお読みください。
7. まとめ
ネガワット取引は、電力会社・アグリゲーター・需要家が三位一体で節電量を“価値化”する、日本独自のインセンティブ型 DR です。4 段階の流れとプレイヤーの役割を押さえておけば、読者の皆さんも参加イメージが描けるはずです。次回は、参加メリットや契約時の注意点を具体例とともに解説します。
参考文献・リンク
番号 | タイトル | URL |
1 | 資源エネルギー庁「VPP・DRの活用」 | https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/advanced_systems/vpp_dr/negawatt.html |
2 | 経済産業省「ネガワット取引について」 | https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_kihon/pdf/005_07_00.pdf |
3 | 経済産業省「ネガワット取引ガイドライン」 | https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/pdf/011_s02_00.pdf |
4 | 資源エネルギー庁「電力の需給バランスを調整する司令塔『アグリゲーター』とは」 | https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/aggregator.html |
5 | 北陸電力「需要抑制量調整供給 説明資料(概要)」 | https://www.rikuden.co.jp/soden/attach/negagaiyou2.pdf |
6 | OCCTO「ネガワット取引に関する説明会資料」 | https://www.occto.or.jp/oshirase/sonotaoshirase/2016/negawatt_setsumeikai2.html |
7 | Blue Media「デマンドレスポンスへの参加方法と注意点」 | https://service.itcenex.com/media/archives/what-is-demand-response/ |
8 | SII「関西 VPP プロジェクト R3年度実証結果」 | https://sii.or.jp/DERaggregation03/uploads/B2_kepco.pdf |
9 | Eneres Journal「容量市場と DR の関連」 | https://www.eneres.jp/journal/capacity_market/ |
10 | 経産省「ERAB ガイドライン」 | https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/advanced_systems/vpp_dr/files/20171129001-1.pdf |