デマンドレスポンスには、いくつかの種類があります。
電気を使う量を減らす「下げDR」と増やす「上げDR」。料金でコントロールする「料金型」と、頑張った分だけ特典(インセンティブ)がもらえる「インセンティブ型」。
言葉だけ聞いてもごちゃごちゃすると思います。それぞれの仕組みと、どんな時に必要になるのかを分かりやすくご紹介します。
この記事を読むと「上げ/下げ DR」と「料金/インセンティブ型 DR」の全体像が 10 分で把握できます。さらに国内外の最新プログラムや研究成果を具体名で知れるので、レポートや研究計画の足掛かりにも最適です。

この記事はこんな人におすすめ
- 中高生:具体例から「デマンドレスポンスの感覚」を体感したい人
- 大学生:DR を 4類型(上げ/下げ × 料金/インセンティブ) で整理したい人
- 大学院生・研究者:国内外の実証・論文・政策動向を俯瞰したい人
1. デマンドレスポンス (DR) のおさらい
1-1. 電力系統の「同時同量」
電気は基本的に大量に蓄えられないため、「いま発電した量=いま消費する量」 をリアルタイムで一致させる必要があります[1] 。需要側が協力してこのバランスを取る仕組みが DR です。
1-2. DR が注目される背景
再エネ導入が進むと 昼間は発電が余り、夕方は足りない というギャップが拡大します。余剰を吸収する 上げ DR とピークを削減する 下げ DR を組み合わせることで、このギャップを解消できます[2] 。
詳細は以前作成した記事がありますので、そちらを参照してください。

2. 上げ DR vs. 下げ DR ― 2つの基本パターン
まずは上げDRと下げDRを整理します。
上げDRとは、電力が余ったときに需要を作るなどをして、作りすぎた電力に合わせて調節を行うDRです。太陽光や風力などの再エネは発電のピークの時に電力が余りやすいので、このような処理を行うことが多いです。
一方で下げDRとは、電力価格が上がったときに等に需要を減らすようにするDRです。
これらをまとめて上げ下げDRと呼んだりもします[1]
以下の表に上げ下げRDの情報をまとめます。
類型 | 定義 | 代表的な例 | 主なメリット |
---|---|---|---|
上げ DR | 再エネ余剰時に需要を創出 | 昼間の EV/蓄電池充電 | 出力抑制回避、再エネ有効利用 |
下げ DR | 需給ひっ迫・高価格時に需要を削減 | 夏のピークにエアコン温度を上げる | 停電リスク緩和、発電コスト低減 |
下の図で上げ下げのDRのイメージを載せておきます。

電力需要に対して上げ下げDRを行うことがあるということは理解できましたか?次に、DRの種類を説明します
3. 料金型 DR とインセンティブ型 DR
DRの手法は大きく2つあります。料金型DRとインセンティブ型DRです。
3-1. 電気料金型 DR(Price-Based)
- 仕組み:時間帯別電灯(Time Of Use: TOU)やリアルタイム価格で需要シフトを誘導。電力需要がピークになるときに料金の値上げをするなどで、DRをします
- 国内例:東京電力の「季節別時間帯別電灯」は夏季 10-17 時を割高に設定しピークを抑制しています[3] 。
- 研究:3段階 TOU を最適化し再エネ出力抑制を大幅削減した中国モデル研究など、料金シグナル設計の最新論文が多数あります。
- メリット/デメリット:自動制御が不要で社会実装が早い一方、高価格リスクを敬遠して参加者が限定されることも。
3-2. インセンティブ型 DR(Incentive-Based)
- 仕組み:節電・増電量に応じて消費者にポイントや報酬を付与します。消費者への電気節約を促しやすいです
- 国内例:東京ガス「IGNITURE スマートアクション」は家庭向けにポイント還元型 DR を展開しています[4] 。また、電力中央研究所によると、北陸地区にてピークタイムリベートと呼ばれるインセンティブ型DRの実証を行っており効果が見込まれています[5] 。
- 制度化:インセンティブ型の下げ DR の1種であるネガワット取引の市場取引が開始しています[6] 。
- 海外大型市場:米 PJM の Economic DR では高価格時に負荷を削減した需要家へ容量+エネルギー報酬を支払っています[7]。
まとめと次回予告
今回の話を以下の表にまとめました。この記事を読んでくれた方のお役に立てば幸いです。
類型 | キーワード | ポイント |
---|---|---|
下げ DR | 節電・ネガワット取引 | ピークカットで停電リスク緩和 |
上げ DR | EV/蓄電池充電 | 余剰再エネの活用 |
料金型 | TOU・CPP・RTP | 価格シグナルで自律シフト |
インセンティブ型 | PTR・容量市場 | 報酬で行動を誘導 |
次回は 「ネガワット取引とバーチャルパワープラント(VPP)の仕組み」 を深掘りし、国内実証と市場制度を整理します。総集編への内部リンクもお忘れなく!
参考・出典一覧
番号 | 資料名・概要 | 引用 ID |
---|---|---|
[1] | 資源エネルギー庁「DR(デマンド・リスポンス)」基礎解説ページ | エネ庁 |
[2] | 経産省資料「DR の実施手法と上げ/下げ区分」 | 経済産業省 |
[3] | 東京電力「季節別時間帯別電灯」約款(TOU 料金) | 東京電力 |
[4] | 東京ガス「IGNITURE スマートアクション」公式サイト | drlv.tokyo-gas.co.jp |
[5] | CRIEPI『ピークタイム・リベートによる家庭用 DR の効果』北陸実証 | 電力中央研究所 |
[6] | 資源エネルギー庁「VPP・DR の活用 ― ネガワット取引」 | エネ庁 |
[7] | PJM『2024 Demand Response Activity Report』 | pjm.com |
[8] | Ofgem『Energy Price Cap Operating Cost…』動的キャップ検討 | Ofgem |
[9] | ScienceDirect『Renewable Energy Integration with EV Technology』 | サイエンスダイレクト |
[10] | The Guardian「EVs could stabilise the grid」記事 | The Guardian |
[11] | PJM『2024 Demand Response Activity Report』 | pjm.com |
[12] | ScienceDirect『Smart Charging Strategy for EVs…』 | サイエンスダイレクト |